ラベルの音楽とクミンシード
久しぶりにラベルの弦楽四重奏曲を聴いた。昔から大好きな曲で、学生の時、こんな曲を書きたいとがんばってみたが、似ても似つかぬ曲になってしまって半べそをかいたことがある。「ボレロ」や「展覧会の絵」で有名なフランスの作曲家であるラベルは、母親がスペインに近いバスク地方の人、父親はスイス出身のフランス人。ラベルといえば、同時代に生きたドビュッシーとよく比較されるが、同じフランスを代表する作曲家でありながら、ドビュッシーの方が生粋のフランス人であると思う。ドビュッシーの生家はパリ郊外、ラベルは幼少の頃はバスク地方で育った。
ラベルは後に、スペイン狂詩曲というオーケストラ作品を残している。この曲の2楽章は、フラメンコのエッセンスをもとに、大きくリズムをとり叙情的に大掛かりにオーケストレーションしたような楽想である。4楽章にも、スペインの香り漂うリズムやフレーズが散りばめられている。
さて、私の勝手な妄想なのだが、ラベルのこのスペイン狂詩曲は、リムスキーコルサコフの交響詩「シェヘラザード」を聴いて、僕もこんな曲つくりたい、と思って書いたのではないかと思う。それなりの根拠はある。当時ロシアとフランスは、文化交流がさかんであった。ロシアのバレエ団はラベルにバレエ音楽を依頼し、リムスキーコルサコフもフランスの聴衆に好まれていた。今と違ってレコードは無い時代だが、ラベルはコンサートで聴いた「シェヘラザード」に感激し、ロシアの大家であるリムスキーコルサコフに憧れ、あのような華麗な管弦楽曲を作曲したいと思ったに違いない。
私は以前に、ラベルの「スペイン交響曲」とリムスキーコルサコフの「シェヘラザード」を比較分析したことがある。そうした所、オーケストレーションの技法で、ここはラベル先生、リムスキー先生のこのヵ所を参考にしたのだな、と推測されるヵ所がたくさんあった。そして特筆すべきは、ラベルの技法が、リムスキーの技法をより完成させているところである。そしてまた、アラビアンナイトから題材ととったといわれる割には、イスラムの匂いがしないリムスキーコルサコフの「シェヘラザード」に対して、ラベル先生は、スペイン狂詩曲という題名をつけることによって、スペインの民族的エッセンス、つまり、元をたどれば、イスラム〜アフリカの香りを散りばめることで、尊敬する管弦楽法の大家であるリムスキーコルサコフに挑戦しようとしたのではないかと思う。そしてそれは成功した。ラベル先生の声が聴こえるようだ。
「リムスキー先生。シェヘラザードっていう題名をつけるなら、このくらいスパイスをきかした方が良いと思いますよ。」
ラベルの音楽にそれとなく入っているスパイスを具体化したもの、それが、クミンシードなのである。けっして、ドビュッシーやリムスキーコルサコフの音楽からは匂わない香りである。
あぁ、やっとクミンシードにたどりついた。
それでは今日は、この辺で。