真夏の日々
ここのところ何をしていたかというと、映画を劇場で2本、コンサートとミュージカルをそれぞれオーチャードホールと帝国劇場で観て、暑い夏の日を過ごしている。さて、どこから書こうか、、、、。
まず始めに、映画の一本目は2週間前に観た、「グラン・トリノ」。これはクリントイーストウッドの俳優としての人生と、フォードの自動車に象徴されるアメリカ経済を支えた主人公の人生が、どこか重なって描かれているように見える。ひょっとしてイーストウッド自身が、自分自身の「死」というものを強く意識しているのではないか、ということが、スクリーンから伝わって来た。他にもアジアの時代(有色人種の時代の到来)という現実に起こっている世界の勢力地図を塗り替える市井の出来事も、今の米国郊外で実際に起きていることなのだろうと実感させる。最近のハリウッドぽくない、とても深みのある良い映画だった。
さて、そして2本目の映画は「ハゲタカ」。何なのでしょう、この映画の魅力は。主演の大森南朋さんの魅力と、彼が演ずるキャラクター鷲津政彦の魅力があまりにもマッチしすぎて、効果が何倍にもなっているのだろうか。音楽やらダンスの映像を何回も見たい、と思うことは何度もあるが、映画でこんなにはまったのは、初めての経験だ。
魅了されてファンになる歌手やミュージシャンや俳優、ダンサーなど、エンターティナーには、それぞれ、発する声、音、動き、それらをひっくるめたオーラなどが、ぴったりと、聴く側、観る側の、たとえば私の脳を刺激し、癒しているんだという、根拠はないが、確信がある。かつて、特効薬のように私を癒してくれたのは、珠玉のベルベットヴォイスを持つ6人組、TAKE6、そしてテノール歌手ラッセル・ワトソンさんの歌声。ラッセルさんとは、とうとう仕事までしてしまったほどだ。彼らの歌は、私にとってのぴったりの倍音を含んだ声なのだろうと思う。
マイケル・ジャクソンは、歌とダンス、聴覚と視覚両方を受け取る脳を刺激しているのだから、その威力はとても強力だったのだと思う。松任谷由実さんの歌声も、ある人々を癒す特殊な周波数を含んでいる、ということはよく言われていることだ。
さてオーチャードホールでのコンサートは、加山雄三ショー。なかなかみることのできない昭和の歌謡ショーにご招待いただいた。というのも私の同郷の友人であり猫の先生、のんたんの旦那様が、スティング宮本さんといって、今の加山さんのツアーバンドのベーシストなのである。加山さんもしかりで、生で聴くその歌声は、とでも若々しく声量があり、長年、多くの聴衆に必要とされてきたエンターティナーであることを実体験した次第である。
そして7月11日に帝国劇場でミュージカル「ダンス・オブ・ヴァンパイア」を観た。職業柄、どんな音楽なのだろう、という好奇心から小島文美さんをお誘いして足を運び、久しぶりに血、コウモリ、城、の暗黒世界に浸ってきたのである。主役の山口裕一郎さんは、7色の声色をもち、はりあげ系とウィスパーヴォイスの歌唱を巧みに歌い分ける、凄い人だった。知念里奈さんは、しっかりとミュージカルスターとして、着実にキャリアを積んでいて、コロラトゥーラの愛くるしい歌が印象的。シンセサイザーを駆使したオーケストラ、偶然なことに指揮者の西野淳氏は、大学の後輩であることが判明した。最近は劇団四季などの、ミュージカルの指揮のお仕事が多いとのこと。こういう思いもかけないところでの旧友の活躍に立ち会えたことは、嬉しいものである。ダンサーの人たちは、ブロードウェイにそのままいけるのでは、と思うくらいだったし、舞台美術や照明、衣装、どれも豪華で、日本のミュージカルのレベルの高さに驚いた。
さてここからは、例によって、バカ丸出しのファンになります。ミュージカル終演後、私と文美さんは、マンダリンオリエンタルホテル東京へ。そう、ここは映画「ハゲタカ」の主要ロケ地である。文美さんも私も、鷺津にぞっこんなのだ。なんだか嬉しくなってしまって、ヴァンパイアにひたること20分、その後は、ひたすらハゲタカについて語り合う楽しい1日となった。文美さんは、テレビドラマからご覧になっていて、原作も読み、ドラマDVDも購入されて隅々までご覧になっている。ハゲタカ初心者の私は、いろんなお話を聞かせて頂き、幸せな時間を過ごした。マンダリンは、普段足を踏み入れない超☆超☆高級ホテルなのだが、お茶だけ飲みましょう、ということになり、えいやっと、二人で出かけたのだ。1階エレベーターでカフェに行きたい旨をコンシェルジュの女性に伝えたところ、心得た様子で、37階のカフェに案内して下さった。エレベータが空き、目前に広がった、そこは、、、、、。文美さんも私も、緊張と感激のあまり、つまずきそうになりながら案内された席へ。うああっ、ここは、リーと鷲津が会う、あの場所だ。何といったら良いか、映画で見たそのままの空間、(リーが降りてくる階段、それを待ち受ける鷲津が立っていた場所、中国の僧侶のブロンズの置物、2人が食事をしながら話をしたテーブル)すべてが見渡せる場所だったのだ。しかも案内された席は、それらが見渡せる特等席だった。今考えると、あれは、ハゲタカファンのために用意された席だったのではないか、という気さえしてきた。憧れの歌手が自分の耳元でマイクなしの生声で歌ってくれている感じに似ているかも。夢心地でお茶を頂き、小さい声でハゲタカ話に花を咲かせ、次はいつ映画館に行こうかとワクワクしながらホテルを後にした。
その後、庶民的な炉端焼き屋さんに場所を移し焼酎を呑みながら、尽きることのないファン話で盛り上がった。こういうとき、文美さんも私も子供に戻っているのだと思う。鷲津の台詞をそのまま暗唱しては笑い転げ、買い叩く、とか、腐った日本、とかの言葉に反応し、箸が転げても笑っていた、あの頃に戻ったようだった。山根ミチル推薦、憂鬱を官能に変えてくれる映画、とでも言っておこうか。あげくの果てには、2人で呑むといつもそうなのだが、私は文美さんに、ハゲタカの劇画を描いてくれだの、そしたら私が鷲津のテーマをつくるだのという妄想系の話になり、プチ映画評論のような話まで飛び出して、好きな物があるということは幸せなことだなぁー、そして優れた作品はいろいろなものを生み出すのだなぁー、ということをしみじみと実感した。そして、大森南朋さんが、今後、俳優としてどういうお仕事をなさるのか、目を離せない存在になりました。しばらく、ハゲタカ熱は醒めそうにありません。文美さん、どうもありがとう。
それでは今日はこの辺で。